第7回精神保健フォーラム宣言

 私たちは、日本の精神保健・医療・福祉に携わる者として、またこれらを利用する当事者や家族として、さらにはこの領域に深い関心を寄せる市民として、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下、精神保健福祉法、または同法)」の2013年改正という重大な局面への問題意識を共有しながら、精神保健従事者団体懇談会主催の「第7回精神保健フォーラム」に集いました。
 精神保健福祉法2013年改正は、これまで政府の「障がい者制度改革推進会議」や「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム」で精力的になされてきた議論の到達点を踏まえて行われることが期待されました。しかし結果として、その重要な部分において私たちの抱く理想から大きく隔たるものとなりました。
 特に、長らく懸案となっていた保護者制度の廃止が表面上成ったものの、家族等が医療保護入院の同意者となる規定を残したことによって、理念上も実務上も深刻な問題を抱え続けることになりました。国際的にみても日本が突出して多いといわれる非自発的入院の要件をさらに緩和するだけであり、人権擁護の観点からは後退であるとの厳しい評価も免れません。実現が期待された入院当事者の代弁者制度も見送られ、精神医療審査会の本格的な機能強化も先送りされました。また、医療保護入院期間の短縮を促すための規定がいくつか新設されましたが、その実効性は不透明です。
 一方、改正同法第41条に「厚生労働大臣は良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供の確保に関する指針を定めなければならない(いわゆる大臣指針)」との条項を設けたことは異例であり注目に値しますが、その評価は難しいところです。大臣指針で定める事項とされたのは、精神病床の機能分化、在宅の精神障害者の保健・医療・福祉サービス、精神科医療における多職種間連携、その他の重要事項、となっています。しかしこれらは本来、医療法や地域保健法、障害者総合支援法等の中で取り組むべき課題です。それらをあえて精神保健福祉法を根拠とする指針で扱うことで、精神保健・医療・福祉の特殊性や後進性を一層固定化する可能性があります。医療法における人員配置の差別的特例を廃し、同時に診療報酬等を是正して、精神科医療を一般医療に近づけることが私たちの悲願です。この究極の目標から見れば、特殊法である精神保健福祉法から保健・医療の本体にアプローチしようとする手法に対して危惧を抱かざるを得ません。
 特に、改正法第41条の大臣指針を策定するための検討会で議論になっている「病棟転換型居住系施設」構想については、これが真の地域移行とは程遠い姿となる可能性が大きく、当事者の意思確認の方法等も不透明であることから、重大な危惧を表明せざるを得ません。
 このように精神保健福祉法2013年改正はまことに多くの課題を残しましたが、その責を為政者のみに帰してはなりません。例えば保護者制度の問題が国会の附帯決議に明記された1999年からすでに10数年が経っており、この間、保護者制度に代わりそれを超えるような公的権利擁護制度を私たちがどれだけリアリティをもって検討してきたのかということを真摯に反省しなければならないのです。法の見直し時期はすぐにやってきます。私たちはこのフォーラムでの討論を糧として日々の実践を積み重ね、精神保健・医療・福祉の真の改革を目指して、法や制度のあるべき姿を追求することをここに宣言します。


2013年11月23日

第7回精神保健フォーラム

 



第7回精神保健フォーラムプログラム

変われるのか? 病院、地域 -精神保健福祉法改正を受けて―
2013年11月23日(土・祝)(於)大手町サンケイプラザ
主催:精神保健従事者団体懇談会 実行委員長:長谷川利夫

<開催趣旨>

 2013年6月、精神保健福祉法が「改正」されました。これは「改正」なのか?あるいは「改悪」なのか?これによって病院、地域は変われるのでしょうか?
 法改正の最大のポイントは「保護者制度の廃止」でした。しかし1900年(明治33年)の精神病者監護法以来100年を超える日本型システムに終止符が打たれることは今回もありませんでした。確かに条文上、保護者の規定は削除されました。しかし、医療保護入院の要件は、精神保健指定医1名による診察・判定を維持したまま、「保護者」の同意に代えて「家族」等の同意があれば足りるとしました。これは従来に比べて安易な入院を増やすことにもつながりかねません。また、家族間で判断が異なる場合などに家族内の葛藤が増していく危険性もあり、保護者制度の問題点は温存されたままです。
 そして、いかに患者の権利を擁護していくかについては、代弁者制度を法律で定めることが見送られました。精神医療審査会についても、抜本的見直しはなされず、引き続き各都道府県に事務局があり、患者本人の意見聴取が必須にもなっていません。
 このような多くの問題点を残したままの法改正は、決して「改正」と手放しで喜べるものとは言えないのはないでしょうか。
 私たちは以上のような観点から、今回の法改正の問題点を共有し、さらに精神の障害をもった人たちが住み慣れた場所で生き生きと暮らせるための方策を皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

 精神保健従事者団体懇談会(精従懇)は、精神保健に関わる18の団体から構成される組織で、今回でこの精神保健フォーラムも第7回を迎えます。
 どうか共に、現在の精神保健について考え、病院、地域をより精神の障害をもった人たちにとってもより良いものに変えていけるよう前進しようではありませんか。
 たくさんの皆さんのご参加をお待ちしています。

<プログラム>

10:00~10:30

基調報告「精神保健福祉法2013年改正をどうとらえるか」
岡崎伸郎(精神保健従事者団体懇談会 代表幹事)

10:30~11:30

特別講演「これからのためにも、あまり立派でなくても、過去を知る」
立岩真也(立命館大学大学院先端総合学術研究科教授)

12:30~14:30

シンポジウムⅠ「改正法における医療と地域の連携」
司会
川副泰成(神奈川県立精神医療センター せりがや病院 医師)
大塚淳子(日本精神保健福祉士協会 精神保健福祉士)     
シンポジスト 
田渕 誠(NPO法人 堺市相談支援ネット  精神保健福祉士)
千葉 潜(医療法人青仁会 青南病院 医師)        
岩上洋一(NPO法人 じりつ 精神保健福祉士)

14:50~17:20

シンポジウムⅡ「保護者制度廃止後の権利擁護」
司会 
吉住 昭 (医療法人社団翠会 八幡厚生病院 医師)        
金田一正史(千葉県精神保健福祉センター 精神保健福祉士)      
シンポジスト
太田順一郎(岡山市こころの健康センター 医師)
野林信行 (福岡県弁護士会精神保健委員会 弁護士)            
関口明彦 (全国「精神病」者集団 運営委員)        
本條義和 (みんなねっと 副理事長)

17:20 

フォーラム宣言採択 閉会の辞 長谷川利夫(実行委員長)

18:00~

懇親会