第5回フォーラムプログラム

第5回精神保健フォーラム宣言

 私たちは精神保健・医療・福祉の現状を充分に改革することができないまま、今日に至った。それに加えてメンタルヘルスの問題が深刻化し、人々は危機的な状況に追い込まれている。
 いま何よりも大切なのは、一人ひとりの尊厳と生命が障害の有無を問わず等しく大切にされる社会の実現である。私たちは、それぞれの立場からこの社会の実現に寄与しようとするものである。
 このフォーラムにおいて、私たちは、これまでの取り組みが不十分であることをあらためて認識した。その上で、病院および地域での実践と相互研鑽をさらに重ねながら、以下のような視点に立った運動を展開することをここに宣言する。

  1. 国は、これまでの精神障害者の隔離収容を優先させた精神保健・医療・福祉施策の誤りを認め、その反省に立って当事者の主体性を重視した施策を講じ、精神障害者の自立と社会参加を保証しなければならない。そのために財源の大胆な投入が必要なことは、言うまでもない。
  2. 精神保健福祉法を解体し、その中の医療に関する条項を医療法に移し、精神医療が一般医療と同質同等の計画と水準で提供できるようにすること、併せて非自発的入院に関しては、患者の権利保障を明確にした適正医療に関する法律を新たに制定することを求める。
  3. あらゆる障害を包括する障害者福祉法を新たに制定し、精神障害についても他障害と同質同等の水準の福祉を提供すること、併せて障害者差別を禁止する法律を制定することを求める。
  4. 心神喪失者等医療観察法は精神障害者にさらに強いスティグマを課し、精神保健・医療・福祉の現場を管理の場に変質させるものである。私たちは今後も問題点を広く明らかにし続けるとともに、従事者としてこの法律に関与しつつ、内部からも問題点を明らかにする活動を展開する。
  5. 介護保険制度の見直しに当って、精神障害者福祉施策をこれに統合することが検討されているが、自立支援と社会参加のための仕組みを作るに当っては、以下のことを求める。精神障害者のニーズを的確に把握し、制度設計に当事者の意見を反映させること。サービス提供の地域格差を解消し、利用者負担を最小限にすること。
  6. 私たちは精神保健・医療・福祉に関する情報公開を推進し、説明責任を果すことによって、当事者との共同作業の場を創出していく。
  7. 市場化と効率化が進む現代社会において、人々は新たなメンタルヘルスの危機へと追い込まれている。私たちのもう一つの課題は、日常の現場での活動を通じて、一人ひとりが誇りを持って生きていける社会を築くことである。

 

第5回精神保健フォーラム プログラム

基本テーマ:脱施設化とノーマライゼーションの実現
会   期:2004年7月24日(土)~25日(日)
会   場:ヤマハホール
      東京都中央区銀座7-9-14
      TEL:03-3572-3139(会場への交通案内6ページ掲載)

 主催:精神保健従事者団体懇談会(精従懇)
     国立精神療養所院長協議会、全国自治体病院協議会精神科特別部会、
     全国精神医療労働組合協議会、全国精神障害者社会復帰施設協会、
     全国精神障害者地域生活支援協議会、全国精神保健福祉センター長会、
     全国精神保健福祉相談員会、全国保健・医療・福祉心理職能協会、
     全日本自治団体労働組合衛生医療評議会、地域精神保健・社会福祉協会、
     日本作業療法士協会、日本児童青年精神医学会、日本集団精神療法学会、
     日本精神保健福祉士協会、日本精神科看護技術協会、日本精神神経学会、
     日本総合病院精神医学会、日本病院・地域精神医学会、日本臨床心理学会、
     日本精神保健看護学会(以上20団体 50音順)  

後援:厚生労働省、東京都、日本障害者協議会、日本精神神経科診療所協会、
    日本精神病院協会、DPI日本会議、全家連
    (交渉中)

代表世話人:伊藤哲寛(日本精神神経学会)
        高橋 一(日本精神保健福祉士協会)
        樋田精一(日本病院・地域精神医学会)

開 催 趣 旨
 精神保健従事者団体懇談会(略称:精従懇[せいじゅうこん])は精神障害者の人権を守り、生活を支える精神保健・福祉の実現を目指す従事者の集まりです。1986年の発足以来17年、100回に及ぶ定例会を開催し、日本の精神保健・医療・福祉の改革に向けて熱い討議を続けて来ました。この間、様々な法改正や政策について要望や提言を行うとともに、精神保健福祉法改正などの節目に4回の精神保健フォーラムを開催しました。しかし、法律の改正で「人権」や「福祉」の言葉が条文に盛られ、障害者プランには「ノーマライゼーション」の理念が高く掲げられはしたものの、未だに多くの精神障害者が社会の中で差別と人権侵害に苦しみ、十分な治療を受けられないまま精神病院に隔離収容され続けています。この現実を私たちは直視しなければなりません。
 2002年に政府は新しい障害者プランを公表し、「7万2千人の退院」や「地域生活の支援」を強調し、脱施設化とノーマライゼーションを推進するとしています。しかし、その一方で、多くの障害者、関係者、市民の反対を押し切って、精神障害者への差別と偏見を助長し、人権侵害のおそれの強い「心神喪失者等医療観察法」を成立させ、治安管理を優先させようとしています。日本の精神保健・医療・福祉を改革し脱施設化とノーマライゼーションを実現できるのか、治安管理優先の逆風の中で精神障害者の人権を守れるのか、私たちの真価が問われる重大な岐路に立っています。精従懇の17年の歩みを踏まえ、真の改革の道を見出すために、障害者、関係者、市民と語り合い、手を携えて行動したいと思います。

第1日目 2004年7月24日(土)
<午 前 の 部>
□開会式(9:30~10:00)
司会:比留間 ちづ子(日本作業療法士協会)
主催者挨拶 金杉 和夫(日本病院・地域精神医学会)
来賓挨拶

□記念報告「精従懇と私たちの歩み」(10:00~11:30)

代表幹事として精従懇の基礎を築いてきた3人が自分自身の精神 保健・医療・福祉への取り組みから精従懇17年の歩みを振り返る。

司会:金杉 和夫(日本病院・地域精神医学会)

「保安処分反対からノーマライゼーションへ -共生社会・人権尊重の医療を求めて-」 
森山 公夫(日本精神神経学会)   
「PSW資格化から<生活モデル>によるクライエントの社会参加支援」
高橋  一(日本精神保健福祉士協会)   
「障害者プランから医療観察法反対へ
~病院の社会復帰活動と地域リハビリテーション~」

樋田 精一(日本病院・地域精神医学会)

指定討論:  中島 豊爾(全国自治体病院協議会)

□基調報告(11:30~12:00)

「誇りを持てる精神保健システムを創出するために」
伊藤 哲寛
(精神保健従事者団体懇談会代表幹事)

<昼休み:12:00~13:00>

<午 後 の 部>
□招待講演(13:00~14:00)
テーマ「脱施設化とこれからの障害者施策」
司会:猪俣 好正(全国自治体病院協議会精神科特別部会)
講 師:浅野 史郎(宮城県知事)

□シンポジウムⅠ(14:10~17:00)

「医療観察法の施行に対して、精神障害者の人権をどう守るか」
犯罪を犯したとされる精神障害者の処遇については、①安易な起訴前鑑定(簡易鑑定)により裁判を受ける権利が奪われたり、結果的に不適切あるいは不必要な入院が行われる。②措置入院となり退院の見込みのない終身刑のような拘禁を強いられる。③留置・拘留・受刑など司法による拘禁の中で適切な医療が受けられない、などの人権上の重大な問題がすでにあるが、医療観察法はさらに④予測出来ない「将来の再犯のおそれ」を要件に専門施設に無期限に拘束するという人権侵害のおそれの大きい拘禁制度を付け加えた。私たちはこれらの司法に関連した精神障害者の人権問題に対して全体的に取り組む必要がある。

司会:大塚 淳子(日本精神保健福祉士協会)
仲地 珖明(日本精神科看護技術協会)

シンポジスト

  1. 「医療観察法の施行に対して、精神障害者の人権をどう守るかー守れるのか?何ができるのか?対象者・鑑定『治療』の観点からー」
    中島 直(日本精神神経学会)  
  2. 「隔離患者のない精神医療を求めて」
    八尋 光秀(日本弁護士連合会)  
  3. 「取材・報道はどうなるか、どうあるべきか」
    原 昌平(読売新聞社)  
  4. 「心神喪失者等医療観察法施行阻止に向けて」
    山本 眞理(全国精神「病」者集団)

□講演(17:10~18:00)

テーマ「メンタルヘルスの危機と新自由主義の動向」

 青少年の犯罪、大人たちに理解できない若者文化、家庭内での虐待・暴力、職場でのリストラ・過労・いじめ、中高年の自殺などの問題が不況・社会矛盾・文化の歪みを背景に生じている。にもかかわらず国は青少年のメンタルヘルスについて「心のノート」を義務教育の中で展開し、解決できると安易に考えている。現代のメンタルヘルスの危機について、様々な角度から検討する。

司会:藤本 豊(日本臨床心理学会)
講師:高岡 健(日本児童青年精神医学会)


第2日目 2004年7月25日(日)
<午 前 の 部>

□シンポジウムⅡ「精神医療の脱施設化をどう実現するか」(9:30~12:00)

精神病院に長期間収容されている「社会的入院者」を早期に退院させ、精神病床を削減し、収容拘禁型の入院制度を撤廃するためには、地域での社会復帰のための「受け皿」を用意するだけでなく、一人一人の入院者を退院させる援助策、病床を確実に減らし、医療施設の名に値しない病院をなくす方策が必要である。政府が「10年間で7万2千人の退院」と唱えても、それだけでは病床削減につながらない。今も事実上残されたままの医療法特例を撤廃すること、病院医療が本来の役割に徹することが求められている。実践例を通じて、脱施設化への道筋を明確なものとしたい。

司会:天野 宗和(全国精神保健福祉相談員会)
川副 泰成 (全国自治体病院協議会精神科特別部会)

シンポジスト  

  1. 「自己完結しない医療であり続けること」
    梶元 紗代(日本精神保健福祉士協会)
  2. 「セルフアドヴォカシー、リーガリアドヴォカシー、市民アドヴォカシーの連携」  
    山本 深雪(大阪精神医療人権センター)
  3. 「地域精神医療における総合病院精神科の可能性」
    佐藤 茂樹(全国総合病院精神医学会)

指定討論
矢島 鉄也(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神保健福祉課長)

<午 後 の 部>
□シンポジウムⅢ(13:00~15:30)
「当事者本位の地域保健・医療・福祉システムとするために」
今地域の現場では、市町村への業務移行、保健所の統廃合、精神保健福祉センターの機能の見直し、移送制度実施などを巡って、多くの矛盾と混乱が起こっている。このような現実の問題を直視した上で、当事者本位の精神保健・医療・福祉へどのように転換するか、地域主体の地域生活支援ネットワークをどう生み出すかを問う必要がある。ノーマライゼーションの実現のために、福祉中心の新たな法体系を整備すること、財源を確保することなど、山積している課題を検討したい。

司会:寺澤 暢紘(全日本自治団体労働組合)
比留間ちづ子(日本作業療法士協会)

シンポジスト

  1. 「当事者がつくり当事者が支える地域とネットワーク」
    向谷地 生良(べてるの家)
  2. 「これからの地域精神保健福祉の課題ー柔軟で拡がるネットワークの形成に向けてー 」
    白澤 英勝(全国精神保健福祉センター長会)
  3. 「当事者本意の精神保健福祉相談」
    塙 和徳(全国精神保健福祉相談員会)

指定討論 
「身体障害者当事者運動の経過と課題」
三澤 了(DPI日本会議)

□総括討論・アピールの採択(15:30~16:30)

司会:伊藤 哲寛(日本精神神経学会)
高橋  一(日本精神保健福祉士協会)
樋田 精一(日本病院・地域精神医学会)