2016年4月23日(土) 精神保健従事者懇談会主催 
「精神保健福祉法改正後の現状と課題」を終えて


 2016年4月23日(土)の午後、大手町のTKPカンファレンスセンターにて「精神保健福祉法改正後の現状と課題」と題し、基調報告2本とシンポジウムで構成した企画を行いました。広報活動がやや弱かったことや、一週間前に平成28年熊本地震が起きたこともあり、参加状況が懸念されましたが、100名強の参加者が集い、充実した時間を持つことができました。

 開会にさきがけ、本団体の代表で精神神経学会理事の吉住昭先生から、本団体について御存じない方も増えていらっしゃるとのことからご説明をいただきました。加えて、院長をお務めの八幡厚生病院が福岡県であることから、熊本地震の被災状況やDPATの活動状況などについてのご報告も含め、ご挨拶をいただき、参加者一同、熊本県や大分県などの被災者に心を寄せ、始まりました。

  基調報告1では、日本病院・地域精神医学会理事長の山下俊幸医師から、精神保健福祉法の改正の経過を概観し、改正後の現状および今後の課題についてご講演をいただきました。障害者権利条約の理念に照らせば、精神障害であることにより特別な法律があることが先ず再検討されるべきとした上で、課題の多い精神保健福祉法による医療から一般医療の水準に少しでも近づけていくために、検討のロードマップを策定する必要があるとした。またその都度開催される「あり方検討会」ではなく、行政施策に反映できるよう常設の審議会等における継続的審議を望むと強調されました。

 基調報告2では、福岡県弁護士会精神保健委員会委員などを担われている野林信行弁護士から、「精神医療審査会の現状と課題」について講演をいただきました。人身を勾留拘束可能とする刑事法では裁判所による令状が必要であり、不服申し立ても可能であるのに対し、同じく人身拘束が可能な精神保健福祉法による非自発的入院は、弁護士からすると大変に法的曖昧性があると鋭く指摘をされました。措置入院の場合は精神保健指定医2名の診断一致が条件であるが、裁判所のチェックが存在しないこと、医療保護入院においては公権力ではない精神科病院管理者が主体となって強制入院が可能となっていることの問題性を指摘されました。精神医療審査会の委員構成については、医療委員より法律家委員や学識委員数を多くするべきことや現地調査などの必要性への意見を述べられました。

 シンポジウムは、「本当に進んだのか!?早期退院と権利回復」と題し、司会を務められた作業療法士の渡邉乾さんと水野高昌さんの進行により、大阪精神医療人権センター所属のたにぐちまゆさん、信貴山病院ハートランドしぎさん所属の看護師大谷須美子さん、東京都の地域移行コーディネーターの金川洋輔さん、桜ヶ丘記念病院所属の精神保健福祉士毛塚和英さんの4名が登壇され各体験や実践に基づく発言を頂きました。

 たにぐちさんからはご自身の非自発的入院体験と待遇に感じた不満や問題について語られ、その体験から現在大阪精神医療人権センターの活動につながっていることをご紹介いただきました。

 大谷さんからは、ご自身の所属病院における法改正前後の退院の取り組みの変化のデータをもとに分析や問題提起をいただきました。

  金川さんからは、東京都の精神科病院の状況や、都内の地域援助事業者仲間からの聞き取りをもとに、法改正後の退院支援委員会の状況についてご報告いただき、病院と地域援助事業者の連携の在り方に関する問題提起をいただきました。

 毛塚さんからは、所属病院のデータをもとに退院支援委員会の状況や地域援助事業者との連携の在り方についてご報告をいただくとともに、退院後生活環境相談員の受け持ち患者数の妥当性について問題提起がありました。

 基調報告で示された課題や提起を土台にして、それぞれのお立場からの示唆に富む発言を聞いた参加者は、各自が自らの実践に引き付けてさまざまな思いを巡らせたようでした。フロアとのディスカッションがもう少し持てると良かったと時間不足が残念でした。

  精神保健従事者懇談会では、これまで精神保健福祉法の改正のたびにフォーラムを開催し、現状や課題の分析や政策提言を行って来ました。今回は、次期法改正後のフォーラムまで待たずに、厚生労働省において次期改正を視野に検討会が開催され始めた現時点で、法改正後の現状や問題の整理をしてみようと企画に至りました。そのため、半日企画となり、時間不足な感は否めませんでしたが、「考えさせられた」とか「職場に持ち帰りたい」などと、参加者からは概ね好評をいただき、実施して良かったと考えています。参加者各自が刺激を受け、今後の取り組みにつながる機会になるとすれば幸甚に思います。また、閉会の挨拶で代表である日本精神保健福祉学会の永井優子理事も言われましたように、精従懇としても改めて課題の整理や次期改正に向けた取り組み、さらには今後に向けたアクションをしっかり継続していければと考えます。

 ご登壇者の皆様のご発表の資料につきまして許可をいただきましたので、ウエブサイトに掲載させていただきますので、ご参照ください。またアンケート結果についても一部掲載いたしますのでご参照ください。

実行委員会