2005年度意見書・要望書

2005年6月16日

障害者自立支援法案に関する見解

精神保健従事者団体懇談会

 本法案は、精神障害者施策に関する問題だけでなく、障害者施策全般にわたって必要な社会的基盤、条件が整備されない中で、ひたすら財政的事情のみを先行させて提案され、可決成立が図られていると見えてなりません。拙速の余り、国の障害者施策の大綱を逸脱し、障害者福祉の現場に重大な混乱をもたらすことが危惧されます。本法案の趣旨、重要性からしても全国民的な議論がまだまだ必要であり、国会は、本法案の今会期での可決成立のみを求めるのではなく、全国民的な議論の上に立って十分な審議を尽くされることを切に要望します。

1.私たちは、これまでのフォーラムで、障害種別の福祉法を廃し、かつ、障害者の権利及び障害者差別禁止条項をもりこんだ「障害者福祉法」を制定することを主張してきました。しかし、本法案が制定されても障害種別の福祉法は残り、また障害者の権利や障害者差別禁止を内容とする法案も準備されていません。今回の法案は障害者施策の基本的な視点を欠いたものであり、私たちは、今後の障害者福祉のあり方について根本的な危惧を抱かざるを得ません。

2.「障害」は、そもそも、障害者個人の責任に由来するものではなく、国が障害者の社会的自立に向けた施策を講じる責務を負い、地方公共団体は障害者が必要とするサービスをきめ細かく提供する義務を持つとされ、従来の障害者施策は不充分とはいえこの原則によって行われてきていると私たちは理解しています。本法案は、サービスの効率的な提供の観点から制度化を急ぐあまり、この原則が放棄されているのではないかと危惧されます。   
 本法案は、健康保険や介護保険と同様な保険制度の導入を前提に「応益負担」制度を強化し、障害基礎年金からの利用料徴収と「生計を一にする者」への利用料負担対象の拡大を意図していますが、社会的自立を目指しその途上にある障害者を保険制度の主体とすること、障害者の経済保障の一つとしてあった障害基礎年金から利用料を徴収することにはいずれも根本的な疑義があり、仮に「応益負担」制度を導入するとしても利用料算定はあくまでも障害者本人の所得を基礎とすべきと考えられます。障害者基本法でうたっているように、障害者福祉がノーマライゼイション理念に基づく全国民的な課題である以上、それに要する費用は国家財政から支出するのが原則ではないでしょうか。

3.精神障害者福祉施策は、身体、知的障害者福祉施策に比して、社会的資源が種類・数ともに少なく、それらのマンパワーや運営費等の質的な面でも大きく立ちおくれており、この格差を解消することを私たちは以前から求めてきています。こうした格差を解消する具体的な計画が示されないままに本法案が提起されています。この状態で本法案が成立し施行されるならば、これらの格差が固定化されることが危惧されます。国には、これまでの精神障害者福祉施策の著しい立ちおくれに対する責任を明確にし、その立ちおくれを解消する具体的な計画を先に示すことが求められます。加えて、本法案では発達障害を有する人々が対象から外されていることも問題であります。

以上