2002年度意見書・要望書

「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の
医療及び観察等に関する法律(案)」についての声明

2002年5月14日

精神保健従事者団体懇談会
全国精神障害者社会復帰施設協会 全国自治体病院協議会精神病院特別部会
全国精神医療労働組合協議会 全国精神障害者地域生活支援協議会 
全国精神保健福祉センター長会 全国精神保健福祉相談員会
全国保健・医療・福祉心理職能協会 国立精神療養所院長協議会
日本作業療法士協会   日本精神科看護技術協会 日本精神神経学会
日本児童青年精神医学会 日本集団精神療法学会 日本精神保健福祉士協会 
日本総合病院精神医学会  日本臨床心理学会 日本病院・地域精神医学会

 わたしたち、精神保健従事者団体懇談会(精従懇)は、1986年に発足した、精神医療・保健・福祉に係わる学術団体及び職能団体が一堂に会する、我が国ただ一つの連合体です。  わたしたちは、第154回国会に上程されている標記法案(以下法案)について、その可決成立に反対であることを表明し、抜本的見直しを行うよう要請いたします。

 反対であることの理由
1.精神障害者の入院施設や地域社会資源は、他の疾患・障害を持った人たちのそれと比べて著しく不十分な状態であり、その上、精神障害者は偏見にさらされた生活を強いられています。こういた状況を抜本的に改善し、精神医療・保健・福祉を全面的に充実させることこそが最も優先されるべき課題です。そのことを抜きに、「他害行為」への対応策のみを先行させた法案の成立を急ぐことは、精神障害者への偏見を助長するのみで、真の問題解決にはなり得ません。
2.法案では、「将来の再犯の恐れ」を要件として処遇が決定され、専門施設への入院処遇は再犯の恐れがなくなるまで無期限に延長できることになっています。「再犯の恐れ」を精神医学的に科学的根拠をもって予測することは難しいことです。特に再犯の恐れが「ない」という判断はきわめて困難であることから、この法案のもとでは、対象者が必要以上に長期間収容されることが予想されます。
3.また、再犯のおそれを基準とする司法管理下での強制された「地域医療」は、地域医療・地域ケアの本質を著しく侵害するということを強く指摘しなければなりません。
4.不幸にして違法行為を起こした精神障害者への対応については、需要な問題は次の3点であり、法新設の前にこれらの課題への取り組みがなされるべきです。

  1. 簡易鑑定など起訴猶予処分に至る過程に関する問題
  2. 責任無能力あるいは限定責任能力とされ措置入院となった場合の医療の問題
  3. 留置・拘留・受刑などの司法の場における医療のあり方の問題
以    上

「21世紀日本精神保健の抜本的改革に向けての提言」

2002年8月25日

精神保健従事者団体懇談会

1.メンタルヘルスの危機の時代への対応
 現在、日本は世界各国と同様、急激な社会変化の中で深刻なメンタルヘルスの危機の時代に突入している。この克服に向けて、二つの真摯な取り組みが必要である。

  1. 学校や企業や地域社会および家庭などで、人間性を尊重しあえるあり方を模索する
  2. 誰もが安心して利用できるように、質の高い精神保健・医療・福祉の包括的システムを作る。克服への中心理念は、「パートナーシップ」(連帯)である。

2.精神科医療の抜本的改革  この改革には、ノーマライゼーション理念に基づく次のプランの実現が必要である。

  1. できるだけ速やかに現行の精神科病床数約36万床のうち1/3の病床を減らし、「社会的入院」を解消する。同時にマンパワーや医療費などにおける他科との格差を解消し、医療の質を高める。また、ニードの充分に対応し切れていない領域については、公的な責任でより高度な医療の充実を図る。そのために年次計画を策定する。
  2. 精神科医療も他科と同様に、1次・2次・3次の医療圏を整備し、2次医療圏を中心に救急・合併症対策を軸にして、地域住民のニードに応えていく。
  3. 精神障害者の人権を擁護するために、オンブズマン制度の導入、精神病院の寿尾法公開等、実効性のあるシステムを確立する。さらに、これらの延長上に、精神保健福祉法の抜本的改正が求められる。

3.多様な福祉の充実  障害者基本法のもと、精神障害者福祉施策は他障害と同等に量的に充実されるだけでなく、精神障害者の主体性重視という質的転換を必要とする。このために国および地方自治体は強い意志を持ち、マンパワーの充足と市民との連帯を実現する。

  1. すべての精神障害者の社会参加を可能とするために、多様な社会サービスに基づく生活権が保障されなくてはならない。特に、現在の貧困な住居施策の抜本的改善、総合的な雇用施策、権利としての所得保障を実現する。
  2. 上の課題は、医療圏と連動した保健福祉圏域の実施により、具体的な数値目標をもって計画されなければならない。また、諸サービスが活用されるために、市民を含めた福祉的支援ネットワークを確立させ、そのための総合的・包括的なケアマネジメントを機能させなければならない。

 付記
 なお、日本でのこうした精神保健改革の実現を促進し、さらには必要に応じて世界各国の改革の促進にも資するべく、国際的な専門家による相互点検と相互助言のためのワーキングチームをつくることが重要である。