1995年度意見書・要望書

 1995年10月28日

厚生大臣 森井 忠良 殿

精神保健従事者団体懇談会
代表幹事  高橋  一
 樋田 精一
森山 公夫

連名団体
(社)全国自治体病院協議会精神病院特別部会 全国精神医療労働組合協議会
(社・福)全国精神障害者社会復帰施設協議会 全国保健・医療・福祉心理職能協会 
全国精神保健相談員会 全日本自治団体労働組合衛生医療評議会  地域精神保健・福祉協会(社)日本医療社会事業協会 (社)日本作業療法士協会  日本集団精神療法学会 
日本精神医学ソーシャルワーカー協会 (社)日本精神科看護技術協会 (社)日本精神神経学会日本総合病院精神医学会 日本臨床心理学会 日本病院・地域精神医学会

「新障害者プラン」の策定に際して、精神障害者施策の充実を求める要望書

 貴職におかれては、精神保健医療・福祉の充実について、日頃より深いご理解ご高配を頂き有り難うございます。
 わが国の精神保健医療・福祉対策は老人対策に匹敵する国民的課題であり、その改善のために国・自治体を含めた包括的かつ体系的な長期計画の策定が必要であることを、私ども精神保健医療・福祉従事者は以前から訴えてきました。特に昨年の「地域保健法」の制定に当たっては、地域精神保健の改善を含めた包括的な長期計画(精神保健ゴールドプラン)の策定を、厚生省に対しても強く要望させていただきました。
 その後厚生省では「障害者保健福祉施策推進本部」を設置され、障害者の自立と社会参加、地域生活の支援のための施策について総合的な検討を精力的に行い。今年7月25日に「中間報告」を発表されました。その熱意と努力に私どもは敬意を表します。この報告が「ノーマライゼーション」を基本理念として「すべての人が障害の有無や程度を問わず、生き生きと暮らしていけるような社会」を目標に掲げ、身近な市町村を中心にして、障害の種別や保健医療と福祉の縦割りを越えて、障害者の地域生活を支援するための「新障害者プラン」の策定を提案したことを私どもは支持し、この「新障害者プラン」によって精神障害者施策の改善が実現することを期待しています。
 しかし、これまでの精神障害者に対する国の施策は常に立ち遅れて、劣悪で閉鎖的な環境の病院に精神障害者を長期間入院させる隔離収容的な医療が処遇の中心として続いてきたことを考えると、わが国の精神障害者施策を「ノーマライゼーション」の理念にかなう程に充実したものにすることは容易なことではありません。精神障害者の地域生活を支援するための制度と施策の遅れは、保健・医療、福祉各領域で今なお深刻です。保健の領域では、「地域保健法」改正で市町村の役割の強化が打ち出されましたが、精神保健は市町村の業務として位置づけられませんでした。医療の領域では、「医療法」改正による医療圏設定と機能分化構想の中で、精神科医療は内科や外科のような一般医療と同等にプライ マリーケア、救急医療から専門的治療まで広い需要を盛っているにもかかわらず、「特殊な医療」と見なされて、身近な医療圏の中での地域医療から排除されたままです。福祉の領域でも、「障害者基本法」の制定によって精神障害者も障害者福祉の対象として認知されましたが、他の障害者に行われている人権の擁護と福祉の多くの施策がまだ精神障害者には行われていません。  
 精神障害者の「ノーマライゼーション」実現するためには、上に述べた保健、医療、福祉の制度と施策の遅れと歪みを是正するとともに、精神障害者の地域生活のために必要な社会資源を飛躍的に拡大・整備し、同時に精神科医療の供給体制を抜本的に改善することが必要です。「新障害者プラン」による精神障害者施策を充実したものとするため、当会は以下の要望項目を取りまとめましたので、その趣旨をご理解いただき、諸施策に必要な費用を確保し各自治体に配分することも含めて、充実した内容と実効性のあるプランづくりをお願いいたします。
要望項目
1.精神障害者の人権の擁護と福祉のための施策を充実させ、他の障害者と同等の水準の施策を保障すること。精神障害者に対する人権擁護と福祉の施策は他の障害者に比べても著しく遅れている。人権擁護の精神障害者ソーシャルワーカー買うとしては、①道路交通法・労働安全衛生法・優生保護法・その他の差別・欠格条項の改正を行う。②精神保健福祉法の保護者制度を見直し、権利擁護のための法定代理人・後見人制度を確立する必要がある。福祉施策としては③福祉施設の設置・運用基準の格差を是正する。④公共住宅への優先入居を行う。⑤障害者雇用促進法を適用し地域障害者職業センターの利用や法定雇用率の適用により、企業への就職を促進する。⑥障害者手当の適用、障害者年金制度の改善など所得保障を充実する。⑦ホームヘルプ、ショートステイ等の在宅介護援助を行う。⑧これらの福祉施策を担うマンパワーとして精神科ソーシャルワーカーと心理職を早急に国家資格化する必要がある。
2.精神科病院の長期入院者の退院を計画的に促進し、不安なく地域生活へ移行出来るよう援助すること。長期入院者の地域生活への円滑な移行を図るために、精神科病床のある病院や社会復帰施設に精神科ソーシャルワーカー等の社会復帰を担当する専門職員の配置を義務づける。各病院での退院促進計画の策定を奨励する。退院した精神障害者が地域で自立して生活するための受け皿となる社会資源を周辺の市町村で整備する。等の対策を精神保健福祉センターまたは保健所を調整・指導役(コーディネーター)として年次計画を立てて推進する必要がある。
3.精神障害者の地域生活を援助する保健福祉施策を、「市町村障害者計画」に明確に組み入れ、早急に実施すること。特に以下の施策・施設は必ずこの計画に盛り込むべきである。①市町村保健センターに(あるいは「生活支援センター」を設置し)精神保健福祉相談員を配置し、相談員、保健婦と医師等による精神保健福祉相談と訪問援助を業務として実施すること。②「住む場・生活する場」としてはグループホームを、市町村に必ず設置し、需要のある限り早急に増設すること。③「働く場・活動する場」としては「小規模作業所」を精神保健福祉法と国の政策の中に明確に位置づけ、費用の援助を充実し、市町村に必ず設置し、増設すること。④「クラブハウス」の設置などにより、当事者活動の活性化を推進すること。
4.社会復帰施設(援護寮・通所授産施設・福祉ホーム)は人口5~10万人以上の市には必置とし、それ以下の人口の市町村では複数の市町村で広域的圏域を設定し、人口10万人当たり各施設を少なくとも1つづつ(援護寮20名、通所授産施設20名、福祉ホーム10 名で各50人が利用できる)5.精神科医療についても一般医療と同等の医療圏設定を行い。一次医療圏では、診療所や一般・総合病院に「受診しやすい」精神科外来を設置し、二次医療圏でを中心に総合病院有床精神科と病院間の連携を活用して、救急医療、身体合併症治療、各種の専門治療の医療体制を整備すること。設置することを当面の目標にして整備すること。
6.精神科医療での医療法特例を廃止し、一般医療と同等のマンパワーを配置し、入院患者の療養環境(アメニティ)を改善すること。また総合病院への精神科の設置を推進すること。
7.精神障害者の保健福祉に関する保健所と精神保健福祉センターの役割を明確に位置づけること。保健所は広域的圏域にける中心的な機関として、精神保健福祉センターは都道府県における指導的な機関としての位置づけが必要である。
8.精神障害者の保健福祉施策の策定・推進機構として「精神保健推進協議会」と「生活支援センター」を設置すること。①精神保健推進協議会では広域的圏域ないし保健所圏域で当時や・地域での活動を実施している関係者・有識者を含めて構成し、その圏域での包括的な施策の策定・推進を図る。②生活支援センターは市町村ないし保健所圏域で相談・訪問・介護援助等の具体的サービスを提供し、関係機関のコーディネーターとしても機能する。