1994年度意見書・要望書

「精神医学ソーシャルワーカー(PSW)の国家資格化に関する要望書」

1994年5月吉日

 市川市国府台1-7-3
国立精神・神経センター精神保健研究所内
日本精神医学ソーシャルワーカー協会
理事長 大野 和男

要望事項
 早急に精神医学ソーシャルワーカーの国家資格化を図って下さい。
要望趣旨
  精神障害者の人権擁護・社会復帰の促進を目的に精神保健法が改正施行されて、6年を経過しました。この間、精神障害者の人権擁護、社会復帰の促進に向けて一定の前進があったと、本協会は評価しております。しかしながら、入院患者35万人のうち約3割が社会的入院の状態に置かれていることは変わっておりません。
 精神医学ソーシャルワーカー(PSW)の唯一の職能団体である本協会は、「精神障害者の社会的復権のために専門的社会活動をすすめる」との方針をすでに12年前に定め、精神障害者福祉の理論化を求めつつ、倫理綱領と業務指針に基づいて活動を行ってきました。
 その努力と成果は今日、精神障害者とその家族(利用者)、関係者から評価されるようになっております。
 しかしながら、PSWは未だ法的な位置づけがないため、社会的地位や労働条件が非常に不安定であり、結果的に利用者に必要な援助を充分に提供できない状況です。
 昭和62年精神保健法の改正に際し、法の目的を推進するために、精神障害者の社会復帰および生活支援に係わる専門職種であるPSWの国家資格化を図る必要があることが討論され、衆参両議院において付帯決議されました。また、5年後の見直し規定に基づく平成5年の法改正に際しても、第126国会において同様の付帯決議が衆参両議院で行われております。しかし、国家資格化はなされないまま、今日に至っています。
 本協会は、厚生大臣が第126国会で約束したPSWの国家資格化を実現して頂くために、大臣宛の要望書をまとめ、昨年の10月以後厚生省と話し合いを続けてまいりました。
 その結果、厚生保健医療局精神保健課が主管して、PSWの国家資格化に向けて準備がすすめられることになりました。
 精神保健法の立法の趣旨を具現し、わが国における精神保健・医療・福祉の充実を図り、精神障害者の社会への完全参加を目指すには、PSWの質と量を確保することが不可欠であり、そのためにはPSWの国家資格化が1日でも早く図られることが必要であります。
 本協会は、今後とも利用者の期待に応えるために、精神障害者の社会復帰の促進に向けた援助や生活支援、また精神障害者が社会から不当な扱いをされないよう人権擁護に係わる援助を積極的に進め、精神障害者が完全参加のできる社会の実現を目ざし、決意を新たに取り組んでまいります。
 先生におかれましてはこのことについて格段のご理解を頂き、PSWの国家資格化の早期実現に向け、力強いご支援を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。 (参考資料略)
*上記の要望書を1994年5月の精従懇定例会で承認。

以上

1994年9月1日

厚生大臣 井出 正一 殿

精神保健従事者団体懇談会
代表幹事
高橋  一(日本精神医学ソーシャルワーカー協会)
樋田 精一(病院・地域精神医学会)
森山 公夫(日本精神神経学会)

連名団体
全国自治体病院協議会 全国精神医療労働組合協議会 
全国精神障害者社会復帰施設協議会 全国保健・医療・福祉心理職能協会 
全日本自治団体労働組合衛生医療評議会 地域精神保健・福祉協会 
(社)日本医療社会事業協会 (社)日本作業療法士協会 日本集団精神療法学会 
日本精神医学ソーシャルワーカー協会 (社)日本精神科看護技術協会 
(社)日本精神神経学会 日本総合病院精神医学会 日本臨床心理学会 
日本病院・地域精神医学会

「地域保健法」制定に際して、精神保健の充実
(精神保健ゴールドプラン)の策定を求める要望

 精神保健・医療と精神障害者の福祉について、日頃より深いご理解とご高配を頂き有り難うございます。われわれ精神保健・医療・福祉従事者はかねてから、精神障害者の地域での生活を支援し、社会復帰・社会参加を促進するために、地域精神保健の充実が必要であることを訴えてきました。障害者の自立と社会参加の促進の機運が世界的に高まる中で、昨年11月に改正された「障害者基本法」には、精神障害が法の対象として明記され、精神障害者の社会参加が時代の要請であることがますます明らかになっています。精神障害者の自立と社会参加の促進のために国が地域精神保健の改革の方向を国民の前に示すべき時が来ていると言えるでしょう。
 このたび、地域保健のあり方が総合的に見直しされ、本年6月に保健所法の改正により「地域保健法」が国会で制定されましたが、この機に際してわれわれ精神保健従事者は、関係の皆様に下記の項目についてご配慮いただき、わが国の精神保健について地域精神保健の改善を含めて包括的な長期計画(精神保健ゴールドプラン)を策定し、その充実をお図りいただくよう切に要望する次第です。

1.老人対策にける「ゴールドプラン」に匹敵する国レベルでの精神保健に対する長期計画を策定すること。
 精神保健は数百万人の精神障害者を対象とするだけでなく、国民全体の精神的健康の増進をも含む国民的な課題である。また入院患者の劣悪な処遇の改善や、少なくとも7万人と言われる「社会的入院者」の社会復帰の受け皿づくりなど膨大な資金とマンパワーを必要とする課題がこの領域には山積している。国は21世紀の高齢社会に向けて「高齢者保健福祉推進10ケ年戦略(ゴールドプラン」(1989年12月)を策定したが、精神保健対策は老人対策に匹敵する国民的課題であり、必要とされる社会資源、マンパワー、財源について長期計画を策定する必要がある。
2.「精神保健法」を改正し、地域精神保健に関する一章を設け、国および地方自治体の地域精神保健に対する責任と役割を明確にすること。
 精神保健の対象領域は精神障害者の強制入院を中心とする医療・保護から福祉・社会復帰・社会参加、更には国民全体の精神的健康へと拡がっており、これに対応する精神保健法も「医療および保護」に偏らず地域精神保健と福祉を法の骨格として取り入れるべきである。
3.都道府県ごとに策定された保健医療計画を点検し、適切な圏域を設定して、社会復帰施設の整備を重点とした精神保健に関する中長期の年次計画を策定すること。
 国テベルで策定される社会資源、マンパワー、財源についての長期計画と連動して、都道府県ごと、地域圏ごと、市町村ごとの計画の策定が必要である。精神保健法で定められた社会復帰施設はまだまだ整備が遅れており、社会復帰を求める精神障害者や「社会的入院者」の需要を満たすには程遠い現状である。まず当面は必要とされる社会復帰施設の整備を中心に各圏域ごとの中長期の年次計画を作ることが適切であろう。
4.精神保健センター・保健所・市町村保健センターは、上に述べた国・都道府県・各圏域の中長期の計画に基づいて、必要かつ十分な精神保健サービスを全国各地域で展開する実行推進機関となりうるように、それぞれの独自の役割と相互の連関を明確にし、保健婦・精神保健相談員等のマンパワーの増員を計画的に行いながら、その活動を整備・充実すること。